研究概要 |
本研究課題は,カナダのブリティッシュ・コロンビア州クィーン・シャーロット諸島で話されるハイダ語の全体的な文法記述を行なうとともに,言語類型論的な観点からその特質を考察することを主な目的とするものである.今年度も前年度に引き続き,ハイダ語スキドゲイト方言が話される,同諸島のスキドゲイトに赴き,話者数名の協力を得ながら,ハイダ語の文法記述に関わる調査を行なった.調査は,長期1回(約3週間ほど)と短期2回(それぞれ1週間程度)実施し,主に言語資料の蒐集を図った.また,調査以外では,それらの資料の整理と分析,また,過去の調査資料や文献資料の整理と分析を行なった.今年度の研究成果は,大略以下のようにまとめられる. 1)言語類型論的にみてハイダ語における最も顕著な特徴といえる分裂自動詞性を,動詞の意味特徴だけでなく,形態統語レベルの観点からも捉える可能性を探り,通言語的な観点から,他の同種の言語との対照を試みた. 2)ハイダ語の動詞形態法において複統合性にかかわる要素を,音韻的ふるまいと形態的ふるまいの両方の観点から再整理を行なった上で個々の要素の生産性を明らかにするとともに,その生産性がそれぞれの要素の意味や機能とも関係があることを示唆した. 3)ハイダ語の統語法,とりわけ焦点標識に関する予備調査を行ない,主節における機能や従属節における現われなどを考察するための基礎資料を得た. 4)現地におけるハイダ語教育に資するべく,ハイダ語のカリキュラムについて現地の関係者と意見交換をするとともに,ハイダ語の教材(副読本,語彙集など)の作成に協力した. 3年間に亘り補助金を得てハイダ語の記述研究に取り組んできたが,特に統語面における理解は,まだ不十分なものでしかなく,全体的な記述をまとめるには,更に継続的な調査研究が必要である.
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