研究概要 |
手話は元来、文字をもたない言語であるが、現在提案されている手話文字の中でもっとも有効と考えられるのは、バレリー・サットンが1974年に考案した「サットン手話文字システム」(SSW:Sutton Sign Writing)である。SSWはすでに欧米の一部のろう学校では,ろう児の読み書き能力の向上に役立つものとして教育現場で取り入れられている。しかし,日本ではまだSSWに関する認識が希薄であり,これを教育に役立てているろう学校はない。 SSWを日本の聴覚障害児教育の現場へ導入するまでには,まだ多くの調査研究を要するが,手話文字教育の効果を確認するためには,実際にろう児に手話文字を紹介して,その反応をみることが研究の手始めとなる。そこで,本年度は,愛知県内のTろう学校に調査協力を依頼し,中学部と高等部の生徒を対象にSSWのシステムを紹介した後で,手話文字に関するアンケート調査を実施した。その結果,多くのろう学生は手話文字の存在を肯定的に受け止め,特にSSWで書かれた物語を読むことに興味を示した。その一方で,手話文字を書くことについては,書き方を覚えるのが容易ではないという理由から,肯定的な反応は半数にとどまった。 SSWに関する調査は,成人ろう者に対しても 施した。成人ろう者の回答も肯定的なものが多く,SSWを「ろう者に役立つ文字システムである」と考えていることがわかった。また,SSWをろう学校で教える必要があるという回答も半数ほどあった。 SSWに対する聴覚障害児(者)の反応がある程度確かめられたので,20年度後半からは,ろう学校中学部2年生の男子生徒を対象に,毎月1回の手話文字学習会を半年間実施し,ある程度長期でSSWを学習した場合の生徒の学習進捗状況を調べた。この実験授業の結果,ろう児はSSWの基本的な書き方のルールを学習すれば,パソコン入力ソフトを使用して日本手話のSSW表記を積極的におこなう可能性が示された
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