研究概要 |
手話は元来、文字をもたない言語であるが、現在提案されている手話文字の中でもっとも有効と考えられるのは、バレリー・サットンが考案した「サットン手話文字システム」(SSW : Sutton Sign Writing)である。SSWはすでに欧米の一部のろう学校では,ろう児の読み書き能力の向上に役立つものとして教育現場で取り入れられているが,日本ではまだSSWの研究はすすんでいない。 昨年度の研究でSSWに関するアンケート調査をおこなった結果,聴覚障害児(者)の反応はおおむね肯定的であったので,今年度はろう学校中学部2年生の男子生徒を対象に,手話文字学習会を開始し,ある程度長期的にSSWを学習した場合の生徒の学習進捗状況を調べることにした。被験者の都合により,この実験授業はほぼ半年で終了せざるを得なかったが,ろう児はSSWの基本的な書き方のルールを当初の予想より早いペースで習得し,パソコン入力ソフトを使用しての日本手話のSSW表記に非常に強い興味を示した。 SSWを日本の聴覚障害児教育の現場へ導入するまでには,まだ多くの調査研究を要するが,今後はSSWで表記した日本手話の物語を数多く作成してこれを教材にし,聴覚障害字(者)を対象にしたSSWの理解度調査を実施する必要がある。 また,今年度はアジア各国でのろう学校における手話教育事情を調べるため,クアラルンプール(マレーシア)で現地調査を実施した。マレーシアは聴覚障害者の組織的活動が活発であり,手話の標準化に関する研究もすすんでいる。また,ろう学校では教師も積極的に手話を使用するなど,手話による教育が一般的である点が日本と異なる。現地では,文部省特殊教育局でろう教育担当者と面談し,ろう学校の教育方針や国の障害者施策について情報を収集した。さらに,聴覚障害者協会や複数のろう学校,コミュニティ・カレッジ等を訪問して手話教育の現状を視察した。
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