研究概要 |
今年度は主に次の3つの観点から研究を行った。 1.取り立て形式ナンカの多様な意味(ex.例示、否定的特立、柔らげ)を理解するために、「コーヒーか紅茶か何か」といったいわゆる「不定的同格構文」における不定代名詞から、取り立て、さらに接尾辞へと至る通時的変化をまとめ、論文に執筆した。その際、ナンカを、選言や焦点が喚起する選択肢という観点から分析することを試みた。 2.Michel qui est mort!といった意外感や先行文との対比を表わすフランス語の名詞文を、「太郎が死んだなんて」といった終助詞的ナンテを含む文と比較する発表を行った。その際、どちらの構文でも、意外感や対比の意味は、グライスの会話の公理に従って修辞疑問文が否定的意味を表わすのと同様の仕方で派生すると論じた。その後、ドイツ語のirgend、フランス語のquelconque,イタリア語のqualunqueといった不定決定詞が、ignorance, indifference, free choiceなど様々な意味を表わし、さらに否定極性項目としても働くことに注目し、これらの多義性に対して提案されてきた分析をナンテの多様な意味や、フランス語の名詞文の表わす情意的意味の分析に応用することを構想し、現在論文を執筆中である。 3.様々な方言でナンカと複数表示タチ/ラの機能が重なっていることに注目し(ex.高知方言の例示を表わすラ-、奄美方言の複数を表わすナンカ)、取り立て形式ナンカをより広い角度から理解するためタチを意味論的・語用論的観点から分析した2つの発表を行った。その際、タチが表わす複数の意味は「際立ち度の高い成員とその他」という意味から、グループ内の成員の際立ち度が均質化することによって生じると論じた。今後はナンカの例示の意味とタチ/ラの意味の間の類似点と相違点をより細かく規定することが課題である。
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