本年度は(1)方言分類に関する方法論的検討、(2)「蛮話」の位置付け、(3)《中国語言地図集》が設定した「福寧方言群」に関する検討を行った。もっとも時間をかけたのは(3)のテーマである。 1941-1943年に出版された『班華字典-福安方言』及び私自身が調査した周寧県咸村方言、寧徳市虎貝方言、霞浦方言、柘栄方言、福鼎方言、寿寧方言のデータを用いた。その結果、霞浦方言と柘栄方言が非常に近い関係にあること、福安方言と寿寧方言がやや近い関係にあること、福鼎方言が蛮話グールプに属する泰順方言とやや近い関係にあること、《中国語言地図集》が侯官方言群に含めた寧徳方言が、いわゆる広義の福州方言と福寧方言群の中間的性質を示すこと、《中国語言地図集》が設定した「侯官方言群」は《戚林八音》の音韻体系から変化してきたグループと《戚林八音》成立以前に分岐したグループに二分できる可能性があること、福安方言は音節末子音以外の音韻特徴について言うと、びん東区諸方方言中もっとも音韻体系が単純化した方言であること、などが明らかになった。「福寧方言群」に属するとされる方言が共有するsheared innovationは通攝三等舒声韻がo$、ou$等の開口呼韻母で現れる現象しか今のところ発見できず、この方言群設定の妥当性については次年度(最終年度)さらに検討する必要がある。その過程で、《中国語言地図集》のような三分割ではなく、「侯官方言群」とそれ以外に分類する二分割がより妥当であることが明らかになる可能性もある。(以上645字)
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