本研究では日英語の比較構文や英語のout-接辞構文のような程度表現を形式意味論的に考察し、次のような結論に至った。(1)正の程度(positive extents)と差の程度(differences)はどちらもスケール上のポイントの集合という点では同じ型(type)であるが、それぞれ種(sort)が異なる。従って、両者は共起できない。また、負の程度(negative extents)はスケール全体から正の程度を引いたものとして定義されるが、これは一種の差とみなることができ、独立の種として負の程度を仮定する必要はない。(2)比較文A is taller than Bの真理条件をtall(A)>tall(B)と表示することが広く認められているが、少なくとも日本語の比較構文では、∃d[d=tall(A)-tall(B)]のように「差がある」という表示をすべきである。そして、照応的な程度変数があると仮定すると、主節と「より」/「以上に」節の関係を動的束縛によって捉えることができる。
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