現代ドイツ語では、アスペクト(動詞の相)という概念が、文法範疇として確立していないために、別の文法範疇や言語形式に分散した形で表現されている。本年度はまず、これら複数の表現形式にどのようなものがあるのか、そのおおまかな枠組みを突き止めることを第一の目的とした。夏には予定通りドイツに赴き、参考文献や資料の収集を実施することができた。 その結果、まずはドイツ語と英語のアスペクトに関わる表現を比較対照することで、現代ドイツ語における不完了相を表現する形式の分布を把握することができた。具体的には、英語で不完了相アスペクトに該当する進行性(Progressivity)と、それをドイツ語で再現する場合にどのような表現が選択されるのか、例文を収集して分析を行った。例文の総数は128あり、約50%が単純時制形式に副詞を添えるという手段を選び、続いて動詞がActivityを表す場合には、動詞sein/haben(英語のbe/haveに相当する)と副詞句を組み合わせて状態を表す表現に置き換える例が約17%を占めていた。本年度の研究で得られた結論は、2008年3月発行の機関誌「ニダバ」第37号(裏ページ参照)に投稿することができた。結論は以下の3点にまとめることができる: (1)Progressivityがドイツ語で積極的に表現される際に選択される言語形式は複数の手段に分布する。 (2)この分布は任意ではなく、叙述される出来事の意味論的特質・内容に応じて選択される傾向がある。 (3)英語ではアスペクトで表現する内容を、ドイツ語では別範疇に解釈の変換を行う例が多い。 今後は、アスペクトの概念が積極的に表現される例等をさらに収集し、そのデータに基づいて、Progressivityを積極的に表現することを義務付ける統語的・意味論的条件をより詳細に突き止めることが課題となる。
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