本年度は、本研究過程の第3年目に当たり、特定の動詞範疇に関して、ドイツ語と他のインド・ヨーロッパ言語を具体的に対照する形で研究を進めた。本年度の研究の具体的な対象として、助動詞と過去分詞を組み合わせて作る複合時制のうち、ドイツ語の「現在完了形式」とフランス語の「複合過去形式」を取り上げた。どちらの言語も、過去分詞として現れる「本動詞」の意味に応じて、2つの助動詞のうちどちらを使うのかという選択が起こる仕組みになっているところが共通点として挙げられる。 助動詞として使われる動詞のペアは、ドイツ語では「sein vs. haben」であり、フランス語においては「etre vs. avoir」である。いずれの場合も、英語のBE動詞に相当する動詞とHAVE動詞に相当する動詞の間で助動詞の選択が行われる。同系統の動詞ペアの間で助動詞の選択が起こるこれら2つの言語において、その選択基準の共通点や相違点がどのようなものであるのかを具体的に示すことを目的として調査を進めた。 両者の共通点として、本動詞自体の語彙レヴェルでの意味論的な特性が、複合時制形式を作る際には助動詞選択の決め手になっていることがまず確認できた。しかし、ドイツ語ではこれに加えて、動詞と共起する副詞句を含めた「動詞句」全体が備え持つアスペクチュアルな価値すなわち『動詞句全体のAktionsart』も助動詞の選択に決定的な影響をおよぼすケースがあることが確認できたために、フランス語では動詞本体の語彙レヴェルで、ドイツ語では動詞句のレヴェルで複合時制形式の助動詞選択が行われるという相違点を明らかにすることができた。
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