研究概要 |
2009年度は,計8回の北京調査により,次の四つの調査課題((1)(2)(3)(4)),二つの研究課題((5)(6))のそれぞれについて,調査と研究を進めた=(1)北京白話報刊(北京評書を含む)の調査/(2)影戯影詞の調査/(3)満漢供詞の調査/(4)電視劇本の調査/(5)清民語庫の構築/(6)清民語料の解析その他=. 特に,課題(3)では、故宮西華門内の中国第一歴史梢案館(「一館」)に所蔵される明清档案のうち,刑部档案に続き,北京周辺地区(「順天府寳抵県」)の公文書を集順天府档案中の「法律詞訟」案巻の簡易目録(2009年5月)を作成し,その一部梢案に含まれる事件関係者の供述書「供詞」の原件とその引用(「據○○○供」,女性の場合は「據○□氏供」の形式から始まる)とを抽出抄写する作業を継続中である.たとえば,嘉慶25年(1820)2月,天津県小潘庄の民人張幅増が,長期不在の妹夫趙良のもとから,父親が連れ戻した妹を他の男性に売り渡したため,出稼ぎ先から戻り金銭代償を求めた趙良との間でトラブルとなり,10日夜就寝中の趙良の頭部を斧(「鉄釿」)で斬りつけ死亡させた,と自ら述べる事件など,相当数の供述書(「供詞」とその引用)が含まれることが確認された.その多彩な俗字を読み解き抄写検討の結果,発話の引用を示す《説(と言った)》,動詞の接尾辞《了》《着》《過》,代名詞《我》《他》《他們》,介詞(前置詞)《和(~に)》,句末助詞《?》,半句末助詞《就是了》や感嘆詞《??(アイヨ)》など同時代の小説《石頭記(紅樓夢)》《児女英雄傳》や現代のドラマとも共通する口語性の強い語法特徴が見られることが判明した.また,課題(4)では,清代口語と比較する口語作品の候補として,《メイリィのこと》(2009年10月),《老大的幸福》(2010年2月)などいくつかの連続テレビドラマや話劇に取材し,北京語・共通語とその口頭表現に関する新しい知見を得た.
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