本研究課題は、現代ベトナム語を第二言語として学ぶ場合、或いは現代ベトナム語を第一言語とする学習者が外国語(特に日本語)を学ぶ場合に遭遇する「漢語」をめぐる問題について考察し、東アジア漢字文化圏諸国における相互の言語習得の際に起こりうる独自の現象の実態を解明するべく、基礎データを提供するものである。従来、主に中国語、韓国・朝鮮語、日本語を対象に、特にその意味論的側面に焦点を当てた研究が多くを占めてきたが、同じく漢字文化圏に属し、様々な転移現象が見られるベトナム語及びその漢語系語彙に関しては、同レベルの研究が稀であった。本研究課題ではベトナム語に存在する夥しい数の漢語系語彙(漢越語)の諸特徴の中でも特にその統語論的特徴に焦点を当て分析することにより、ベトナム語を第一言語あるいは第二言語とする学習者に資することが可能な情報を提供し、双方の言語学習を支援する体制を整えることを目的とする。本年度は、まずベトナム語の漢語系語彙の諸特徴を抽出することを目的としたテキストコーパスを整備し、対象とする漢語系語彙リストを作成した。また、従来類似のデータが存在しない日本人ベトナム語学習者の産出データを収集し、誤用箇所の指摘を含むデータベースの構築を開始した。そして、既存のベトナム人日本語学習者による産出データと共に独自に構築した学習者コーパスの初歩的分析作業を行い、そこに見られる漢語系語彙の誤用を統語的、意味的側面から分析した。最後に、次年度以降の課題である通時的考察のための基礎データの収集と整理に着手した。
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