本研究は、研究代表者が押し進めているコピュラ文や存在文に関する新しい理論と、その理論を背後で支えている名詞句の指示性に関する新しい分析を武器にして、日本語、英語、フランス語、ドイツ語など多様な言語における分裂文(cleft sentences)をめぐる諸問題を検討し、分裂文を他のコピュラ文との関係で有機的に記述・説明できる一般理論を構築することにある。まず、日本語においては指定文「あの男が犯人だ」に対応する倒置指定文「犯人はあの男だ」は構築できるが、「犯人であるのはあの男だ」のような分裂文は構築できない。一方、指定文「あの男が病気だ」に対応する分裂文「病気であるのはあの男だ」は構築できるが、倒置指定文「病気はあの男だ」は構築できないことを観察した。そこから「AであるのはBだ」の形をとる分裂文を、Aに登場する名詞句の意味機能の観点から分析した。また、日本語のガ分裂文「とくにおすすめなのがこのワインです」と英語のIt-Clefts構文との関係について検討した。さらに語用論の新しいモデルである関連性理論(Relevance Theory)の立場から、分裂文のAに自由拡充(free enrichment)という語用論的操作が適用されうるかどうかについて論じた。
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