1成果 平成19年度及び20年度の成果に基づいて、依存と認可という非対称的関係性を普遍的な基盤として個別文法の変異をパラメタ及び制約の序列化により説明する枠組みを展開し、日本語の音節構造の適格性に関する制約性の高い理論の構築に取り組んだ。この枠組みでは、音節は韻律構造の末端である音韻位置の集合として表示される。音韻認可の原理によりすべての位置は依存(主要部と依存部)の関係にあり、また、唯一経路の原理により音節表示レベルにおいてそれぞれの位置が必ず二方向唯一の依存関係に組み込まれなければならない。また、構造保持の原理により、語彙で規定された主要部または依存部としての同一性は決して変化しない。 この理論では、説明的妥当性に資する音韻事象のみが表示の構成要素となるという理論的制約を追求し、従来から余剰的であるとして排除されてきた頭子音や尾子音だけでなく、日本語の音韻現象を分析するために用いられることが多いモーラと音節の区別も余剰的であると主張する。ピッチアクセントの移動などの分析において音節とモーラの両方を参照する必要があるという主張が広く受け入れられているが、本研究ではこのような現象に異なる説明が可能であることを示し、その分析が他言語の音韻現象にも適用できる普遍性を持つことを示した。 2意義 音韻理論は、理論的制約性を高めるために階層的な非線形表示を発展させてきたが、韻律レベルでは分節レベルのような構成素の自律性が認められず、理論的余剰性をもたらす結果となっていた。また、日本語音韻論においては、音節とモーラの両方を参照するという主張が広く受け入れられているが、これは普遍文法の観点から極めて有標性の高い分析であるにもかかわらず、ほとんど議論されてこなかった。本研究の意義は、非線形表示のあり方に新たな視点を提示するとともに、日本語の音節理論の再構築及びその実証研究について一つの方向性を示すという点にあると考える。
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