本研究はニューカレドニアと周辺地域の先住民族の言語の記述、記録、出版を目指すものであり、毎年行っている現地調査を中心に着実に成果をあげている。ニューカレドニアの先住民語はこれまでのフランス人研究者中心から、最近ではニューカレドニア大学言語学科の教員や学生などによる研究へと変化してきた。この地域の多くの言語が近い将来、存続が危ぶまれていると考えると現地の研究者が増えることは望ましい。大角翠(研究代表者)のこれまでの研究はこの分野で多くの貢献を果たし、この1年間ではロンドン大学、ハワイ大学、ライス大学の研究者、大学院生からニューカレドニアの言語の調査に関する助言や言語分析上のアドバイスを求められた。また、大角の著作はニューカレドニア関連の出版物や類型論研究にも度々引用され、マックスプランク研究所(ライプチッヒ)が編纂した世界言語構造アトラスには多くの資料を提供している。 2008年度は、これまでのネク語の現地調査を引き続き行い、新たな談話資料と民話を収録した。この民話は研究協力者の辻笑子が収集したオロウイン語の民話と非常に類似したものであり民俗学的にも興味深く、現在絵本として出版を計画中である。ネク語、ティンリン語の辞書の編纂作業、コンピューター入力と校正は進行中である。ティンリン語文法のフランス語訳も研究協力者のブケーが行っている。ネク語の文法はほぼ分析し終わり現在文法記述の執筆中である。 2009年1月にネク語の動詞構造について『東京女子大学比較文化研究所紀要』に発表、ティンリン語の文法と文化的背景について『世界のことば141』(大修館出版)に執筆した他、動詞構造と意味の分析に関する論文をThe Linguistics of Endangered Langage(オクスフォード大学出版近刊)に掲載、また『オセアニア学』(京都大学出版会分担執筆)を近刊予定である。
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