研究概要 |
本研究はニューカレドニアと周辺地域の先住民族語の文法記述と辞書の編纂を目指すものである。平成21年度は前年度の現地調査で得た資料のコンピューター入力、言語分析を行い、8,9月にはオーストラリア国立大学でオセアニア研究者との研究協力、資料収集、およびニューカレドニア現地調査で言語の聞き取り調査を行った。平成22年1月にはオセアニア言語国際学会(オークランド)でティンリン語、ネク語の文法・意味構造について発表を行い、ヨーロッパやオーストラリア、ニュージーランドの言語学者との学術的交流も果たした。 ニューカレドニアの先住民語はこの10年~20年の間にフランス人研究者を中心に記述が行われてきたが大半の先住民語はいまだ十分な研究・調査が行われたとは言い難い。フランス統計局の発表ではティンリン語、ネク語の話者数が近年増加しているが(ネク語は1996年に221人だったものが2004年に320人となっている)、研究代表者は毎年調査のため先住民部落に滞在しており、話者が年々高年齢化し言語が若者層に継承されていない現状を目の当たりにしている。 これまで現地調査その他で収集した資料はコンピューターに入力するとともに、1.テキスト化(文字化、音および文法分析の後、音/語の意味/文の意味を注釈したもの)、2.文法項目毎の分析、3.辞書項目の作成(語と例文を入力)、4.音分析ソフトを用いたデータづくり、を行ってきた。ティンリン語の辞書項目はほぼ完成したが、フランス語訳を加える作業を進行中、ネク語は70%程度の項目を入れ終わっている。コンピューター入力、テキスト化ともに先住民語の音、文法項目が複雑であるため非常に時間と知識を要する作業である。研究代表者は上記の学会発表等のほか、現地調査で得られた民話と周辺の民話の収集、比較も行った(協力者の辻笑子氏が収集したオロエ語の民話と非常に類似)。1つの民話は子供向け絵本として出版し、現在、現地語、フランス語版も準備中である。
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