研究概要 |
平成20年度は,まず前年度に統計数理研究所で報告した,潜在的人称構造に基づく発話理解モデルについて論文としてまとめ,その後イギリスはブライトン大学で開催された言語コミュニケーションと認知に関する国際学会であるLanguage, Communication, and Cognition (LCC)において報告を行った.そこでは,聞き手による比喩表現の理解プロセスにおいて,話し手の主観性が(1)事態認知者としての主観性,(2)言語表現者としての主観性,(3)行為者としての主観性,の3つの相において把握されることを,アイロニー発話,直喩とメタファーなどのレトリック表現のそれぞれの解釈について示した. これらの研究は,本研究課題で推進する規範と逸脱の認知語用論の観点からは,発話者の事態認知と解釈者の発話事態認知の相互作用において,それぞれの事態の規範性がどのように発話理解において利用され,同時に発話理解プロセスがその逸脱をトリガーとしてどのように展開されるかを示すものとして位置づけられる.こうした試みの全体像としての認知語用論の基礎的枠組みについては現在共著書として執筆中であり,最終年度の成果として出版される予定となっている.
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