最終年度である本年度は、前年度までに済ませることのできなかったテキストの確認および語彙・文法事項の確認を引き続きおこなうとともに、テキスト・音声資料・文法説明のとりまとめに入った。 2009年8月にカナダ、ブリティッシュ・コロンビア州プリンス・ルパートにおいて3週間弱の現地調査をおこない、海岸ツィムシアン語話者の協力を得て、約10年前に別の話者により録音されたテープから書きおこした自然談話テキストおよびその英訳のチェックをし、テキスト中に現れる意味・機能が未確認の語について情報を収集した。また、一部の派生接頭辞・接尾辞の意味・機能や、節の連接に用いられるパーティクルの機能等、グロスおよびテキスト末に付ける文法説明に必要となるものの、これまでに十分な資料が得られていなかったいくつかの項目についても確認をおこなった。こうした確認の過程で、話者の年代による語彙的・文法的差異が浮かび上がってきたが、これはきわめて危機度の高いこの言語の変化について知る上での貴重な資料ともなった。 調査終了後は、言語分析ソフトを用いてテキストの整理をすすめるとともに、これらテキストの元となった音声資料のデジタル化・整理、テキストのグロスの理解を容易にするために付ける文法ノートの執筆をすすめてきた。グロス・英訳・文法ノート付きのテキスト集公刊に向けて最終段階に入ったところである。録音者は、第一言語として海岸ツィムシアン語を獲得し、生涯これを話し続けた(話し続けている)おそらく最後の世代に属する。こうした自然談話テキスト集は、言語学的資料としてのみならず、言語教育の場で用いる資料としても貴重なものとなろう。
|