研究概要 |
本年度は,科研費補助によるH16-18年度の研究について,さらなるデータによる比較、検証,及び統計処理を行い発展させた。 (1)量化表現の1つである「さえ」(及び「まで」)についての研究(H16-18年度)では,日本語児が「(他者の)存在の含意」や「尺度の含意」を計算することが出来ないことを示したが,その結果は,該当の意味論的知識の欠如によるものであるのか,語用論的知識の欠如によるものであるのかを決定することが出来なかった。また同様に,「さえ」の基本的語彙知識を有しているかどうか自体についても,予備テストは施行したものの,確固としたものではなかった。したがって本年度は,Hulsey, et. al.やChierchia, et. al.の考えによる新しい実験方法を採用するとともに,発話データで産出が確認されている「だって」を用いて新たな実験を行った。その結果,Hulsey, et. al.の質問方法では語用論的情報量の強弱を認識できないが,Chierchia, et. al.の質問法においては,該当の情報量にある適度,敏感であることが明らかとなった。しかし,子供の語用論的推意の計算が大人と同様ではないことも明らかとなった。 (2)前回の「そうする」動詞句削除文の解釈に関わる研究では,照応詞「自分」の先行詞が量化表現である場合,その束縛変項解釈は偶然のレベルの正答率であることが統計的に有意であった。このことにより,前回は,量化表現を「自分」の変項束縛の先行詞として関連付けることが困難である発達段階が存在するという議論をした。本年度は,表層照応やLF再構築に確実に関わるとされるstripping構造を用いて実験を行った。その結果,先行詞が量化表現である場合も,日本語児が正しく束縛変更解釈をすることが明らかとなった。議論では,言語獲得の経験的事実をもとに,削除の再構築や言語的先行詞を要求する表層照応について論じる。
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