本研究は、植民地期以降のカンボジアにおける国語の成立過程を解明することを目的としている。具体的には、以下の課題を検討する。(1)植民地期後半に出現する若手改革派の僧侶が中心となった辞書の刊行と、それにともなう正書法の確立という課題がある。この課題の検討に際して、植民地期の対仏教政策や、仏教界の反応などが調査の対象となる。(2)植民地時代のみならず、独立後も継続したフランス語教育と、それと並行する形で進められたクメール語教育を取り上げ、その内容、対象者などを検討する。(3)近代的な概念を表わすための借用語や新造語の調査が挙げられる。近代的な概念を表わすための新語には、インドに由来するサンスクリット語やパーリ語が使用されており、本研究ではカンボジアにおける新造語とフランス語の対照表などを資料とし、タイ語で作られた造語がカンボジアに与えた影響などを分析する。(4)クメール語の文法書を検討の材料とする。イアウ・カウフ著『クメール語』(1947年)は、カンボジア初の文法書であると考えられ、同書やフランス語による入門書・文法書の分析から、植民地下で形成された言語観がカンボジアの知識人に与えた影響を明らかにすることを目指す。
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