往来物は、近世から近代において知的文化的ネットワークを形成、生活規範確立に寄与してきた、日本社会の近代化に関わる重要な資料群であるが、その位置づけや価値についての研究が十分に研究がすすんでいない現状にある。 本研究では、北東北地域所蔵の「往来物」についての書誌学的な文献調査を基礎研究として、分類整理を行い、北東北文化圏における言語生活の実態や地域社会の文化形成への影響を解明することを目的とする。他方、東北文化圏における、関西文化や江戸文化の流入や影響についても、往来物資料を通して探求し、文化の相関性についての考察をも目指すものである。 本年度は、基礎調査から資料整理の段階であり、岩手県立図書館所蔵の往来物資料調査を実施した。また、八戸市立図書館所蔵の往来物資料についても調査実施の準備段階にある。 岩手県立図書館所蔵の資料については、目的別に分類、出版地別分類し、その結果を整理中であるが、ほとんどが明治期以降の写本であり、近世期の版本所蔵が少ないことが確認された。 18年度に実施した、弘前市立図書館の調査において、197本もの江戸期の版本が所蔵されていたことと比べると、岩手県立図書館の所蔵状況はかなりの相違点があり、研究結果を詳細に検討することで、それぞれの地域文化の様相の一端を示せると思われる。 また、これまでの研究結果をふまえ、分類整理だけでなく、文化的意義のある、重要で公表すべき資料についての選別も行い、その内容について紹介し、資料性の意義を考察検討するなど、研究成果を発表している。
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