往来物は、近世から近代にかけて知的文化的ネットワークを形成し、生活規範確立に寄与してきた日本社会の近代化に関わる重要な資料群である。しかし、その位置づけや価値については十分な研究がすすんでいない現状にある。本研究では、北東北地域所蔵の往来物資料についての書誌学的な文献調査を基盤研究として、分類整理を行い、北東北文化圏における言語生活の実態や地域社会の文化形成への影響を解明することを目的とする。他方、東北文化圏における、関西文化や江戸文化め流入や影響についても、往来物資料を通して探求し、文化め相関性についての考察を目指すものである。 本年度は、八戸市立図書館所蔵の資料のうち、旧遠山家所蔵の往来物資料を紹介した。加えて秋田県立図書館所蔵の資料についてめ分類整理結果を公表した。すでに行っていた、岩手県立図書館所蔵資料や弘前市立図書館所蔵資料との比較が可能となり、それぞれの地域所蔵文献の偏在状況や格差についての考察検討が可能となった。岩手県立図書館においては、英語関係の資料が貴重な存在であり、秋田県立図書館においては、理数科往来の存在が重要な位置づけにあること、弘前市立図書館には豊富に近世期の版本が所蔵され、関西圏を版元とする文献資料が多いこと等を明らかにした。 本研究の最たる成果は、北東北地域所蔵の往来物資料の分類整理と資料性の提示であり、往来物が、近世期の文化背景を理解するうえに重要なものであることを確認したことであろう。
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