古代日本語が近代日本語に移り変わるその過程において、活用形としての連体形は大きく変化する。このような連体形に関わる一連の変化がなぜおこったのかということを考えるには、古代語の連体形という活用形がいかなる機能をもっているかを明確にした上で、その機能がどのように変化したのかということを分析することが必要になる。本研究は、古代語における連体形の機能の分析をおこない、古代語の連体形がいかなる文法形式であったのかという点を明らかにしようとするものである。 そのために、本年度は中古文学作品の電子化された本文データを利用して、対象となる例文を収集した。その上で、平安時代の連体形がいかなる形式であり、また、いかなる基本機能もつかということについて明らかにすることをめざした。その結果は以下の通りである。 1.連体形の基本的機能について。平安時代における連体形の基本的機能は、連体修飾機能と名詞句形成機能であるといえる。この点は、これまで連体形の機能の一部と考えられてきた機能につき、それが連体形の機能ではなく文の機能であるということを理論的に考察したことによって、より明瞭になったものである。 2.連体形の機能変遷を考えるにあたっては、平安時代の連体形はいかなる形態であるかということを分析しておくことが、連体形変遷の意味を考えるにあたっては重要であるという帰結を得た。それにしたがい、平安時代における動詞の形態分析を連体形を中心に進めた。 3.平安時代の係り結びの機能を検討した。おおよそ、名詞句形成機能を利用して、焦点を形成するという機能があると考えた。これは、現代語のいわゆるスコープの「のだ」とほぼ同等の機能を果たしていると考えた。
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