研究概要 |
本研究では社会言語学的方言調査における調査法について検討を行い,その妥当性・信頼性を検討する。また15年前に社会言語学的多人数調査が実施された地域を調査対象に選定することで方言変化の実時間データを蓄積する。 2009年度は研究の最終年度として総まとめを行い,研究論文を2報発表するとともに,最終報告書を刊行した。15年前に「有意抽出法を用いて選出されたインフォーマント」を対象に「面接質問法」によって調査を行った福島県南相馬市小高区において,同様の方法で追跡調査を実施し,実時間上の方言変化の様相を把握した。項目によって若干のずれは示しつつも,全体として2回のグラフはかなり一致した。有意抽出によってインフォーマントを選出しており,かつ各コーホートの人数が十分に多いとも言えないが,にもかかわらず2回の独立の調査結果に一致が見られたということは,それぞれの調査が各コーホートの方言状況を一定適切にとらえており,これら調査方法の有効性を示唆するものと考えられよう。なお,同一の調査法を用い,複数調査を繰り返す実時間調査において確認される調査結果の異なりが真に経年変化によるものであることを述べるためには,用いた調査法が「同一人物に同一の方法で調査を行った場合には,同一の調査結果が得られる」ものであること,すなわち,方言調査法が十分な「信頼性」を有する(インフォーマントの方言実態を安定的に測定しうる)ことが前提となる。この点を検討するために,同一のインフォーマントに同じ調査項目を用いた再調査を実施した。この2回の調査結果を比較することで質問法の「信頼性」が検討できる。このデータについては現在分析を進めているところであり,今後結果を公表する予定である。
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