・調査・研究内容 本年度においては、前年度からの基礎資料の調査・収集を継続した。やはり、近世の通俗辞書の中心である節用集を主とする。前年度では他の所蔵者には見られないような唯一性の高いものを重点的に調査したが、今年度は近世辞書の出発点であり、本研究のような基礎的研究には欠かせない、近世初期のものを中心に調査した。ことに易林本『節用集』に注意を払い、いわき明星大学附属図書館・大谷大学附属図書館・茨城県歴史資料館等を中心に調査した。このほか、これまで調査を行っていなかった東洋大学附属図書館(哲学堂文庫)・神戸女子大学附属図書館・奈良県図書情報館等でも近世初期節用集を中心に調査を行うことができた。 ・成果・重要性等 前年度の調査によって初めて国語学的に検討された寛永六年本『節用集』(東京女子大学蔵)について、さらに検討をくわえつつ、その辞書史的・節用集史上における位置づけを試みた。すなわち、(1)同本を初めとする一群の節用集が寛永期に存したこと、(2)この群は、従来さして注意されない系統であり、近世節用集全般への影響も大きくないとされてきたが、そう結論するには調査が不足していること、(3)この群は前半部を寿閑本『節用集』(慶長15年刊)によりつつも、後半部は寿閑本と対峙する関係の草書本『節用集』の抜粋・横長本から本文を供給していること、(4)しかもその手法は、版下段階における切り貼りないし透き写しなどで可能な素朴なものと推測されること、などを明らかにすることができ、近世初期の節用集の編纂・改編事情の一端を示した。この成果は、学会発表・論文として本年度内に公表することができた。
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