次の1の作業を行い、前年度までに入手した資料等を用いながら2.4に示す事象を分析し、考察した。また3の問題を検討した。 1.明治期の演説の録音資料を入手し、文字化作業を行い、合せて対応する速記本の記述を示した。 2.典型的な条件表現から独立しつつある用法のうち、接続詞的な表現(ソレナラ・ソレデハ類)を取り上げ、主として江戸・東京語における歴史的な推移を記述し、中央語としてある上方語の影響下で江戸語でもソレナラを用いる実態があり、やがて江戸語が中央語としての位置を明確にするに伴って東国語としての特徴を帯びるソレデハが多用されるに至ることを明らかにした。 3.松下大三郎は口語文法書を著し、標準語成立にも関与する標準語文法の整備に与った。松下のアインシュタイン・相対性理論批判の論文を検証することを通じ、その松下の研究姿勢を検証した。その論文から、松下の、あらゆるものを客観的対象として観察・分析しようとする「科学的」な研究姿勢-その帰するところとして例えば古語も俗語も等しく言語価値を認めて探求対象としたやり方があったこと-が顕在化することが明らかとなった。 4.(口頭発表)肯定的当為表現(ネバナラヌ類)と否定的当為表現(テハイケナイ類)は、前者が上方語主導、後者は東京語主導で発達する表現である。中央語の位置づけ変化を視野に入れることによって、両当為表現の後項部に現れる形式変化並びに条件形に現れる仮定的条件文全体の歴史との距離関係に関して、整合性のある歴史記述が可能となる。
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