本年度は、建仁寺両足院の抄物の調査と漢籍の調査を行った。仮名を含む文章を持つ典籍は原則として撮影するという方針で臨んでいるが、主要な書籍については撮影は終わった。ただ、撮影機器や技術の問題で、写真が鮮明でないものが少なくないため、取り直しをする必要があり、現在は、『山谷抄』を撮り直している。本年度の調査では、これまで全く知られていなかった、密参・門参類を発見した。これは禅僧が古則について議論するときの指針や大要を誌したもので、これまでは曹洞宗の密参類は知られていたのであるが、臨済宗のものはあまり知られていなかった。江戸初期の大徳寺派のもののようであるが、いわゆる抄物に属するものであるから、精査することによって、江戸時代の口語や講義口調などを明らかにすることができるかもしれない。現在は、一部撮影をしてあるだけで、調査はこれからである。また両足院の典籍については、江戸初期の利峯東鋭などが鋭意集めたものも少なくないようで、利峯東鋭の筆で書かれた抄物はかなりの量に登るようである。たとえば、四河入海なども利峯東鋭の筆になるようであるし、その他の大部な抄物にも同筆のものがある。ごく最近、利峯東鋭の書写した奥書のある『韻府』を発見し、145箱の日本書紀関係の写本にあった利峯東鋭の奥書と合致するので、利峯東鋭の文字が確実に同定できるようになり、これから、それぞれの抄物が誰の手になるのかという面での調査に進展が期待できるようになった。
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