本年度は、建仁寺両足院の抄物の分析と五山僧が学習に使用した典籍の調査を行った。密参・門参の撮影が終わり、それが慶長頃の大覚寺派の教義を反映するものらしく、大覚寺派と建仁寺派の間の交流について調査しているところである。また、「刻楮集」は散逸したが、天隠竜沢が抄出した本があると報告されていた。今年度に「刻楮集抄」が他の函に紛れていることを発見し、撮影を始めた。「刻楮集抄」の発見によって、これから、禅僧達の学問の基盤がかなり克明に分かるようになるであろう。両足院住持の手になるものを調査しているが、室町末期の数代の住持の手跡が区別できるようになった。これによって、これまで不明であったいくつかの書籍の書写者が判明することになる。利峯東鋭が、清規・禅籍・漢籍・日本古典など、大部の写本を残していることが分かっているが、現在は、梅仙東逋の手になるものがどれくらいあるのかが問題になってきた。梅仙が書写本に奥書を残さないために、梅仙の筆跡を確定することが難しかったのである。しかし、これもほぼ判別できるようになった。抄物の研究については、若い人々を督励して、研究を進めさせている。すこしずつ成果が上がり始め、本研究のもう一つの重要な目的である、抄物の若手研究者の育成という面では、次年度に大きな成果をあげることができるであろう。
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