今年度は、計画通り、書陵部蔵『春秋経傳集解』全三十巻・鎌倉期点の漢字音データを、コンピュータを用いて入力する作業を終えた。 さらに、本予算により新規購入の『増補親鸞聖人真蹟集成』(全十巻)に基づき、親鸞遺文の漢字音データの入力を開始し、その入力をほぼ完了することができた。 そのデータを活用した研究の一つとして、親鸞とその妻恵信尼との、鎌倉時代における一夫婦の漢字音を比較し、同時代・同地域における漢字音の個人差を調査してみた。 その比較の結果、親鸞は、どのような文献であっても、各漢字の音について規範的な音注をしているのに対して、恵信尼は、経の音読では、漢字の字音に戻すことなく、句として聞こえるままに記す部分が有ることが知られた。その恵信尼は、書簡では、日常漢語音のレベルに留まっていたことがわかった。 このように、鎌倉時代の夫婦の漢字音に、相違が見られたのである。 今後も、このように、蓄積したデータに基づき、諸資料の加点者、文献の性格・場の相違による漢字音の差を考慮し、漢字音を整理・比較研究する予定である。
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