平成19年度は、後崇光院伏見宮貞成親王の『看聞日記』(1416〜1448)の調査を行い、併せて東京大学史料編纂所や国立歴史民族博物館にて文献調査、資料収集を行った。『看聞日記』ではその一部の調査を取り入れて「中世古記録・古文書資料に於ける漢語の意味変化-「計會」「秘計」をめぐって-」を『東アジアの文化構造と日本的展開』に発表した。鎌倉期の『明月記』、『民経記』、室町期の『看聞日記』、古文書の「東寺百合文書」の中から14世紀〜15世紀半ばの用例を集め、「計會」と「秘計」の意味の変遷と展開を考察した。 「計會」は、鎌倉時代から室町時代にかけて、「(1)はからいあわせて・一時に」、「(2)一時に落ち合う・集まる」、「(3)一時に(出来事が)重なる」、「(4)物事が重なって取り込んでいること」、「(5)不意の出来事であわてること」、「(6)困惑すること」、「(7)身体的に困却すること」、「(8)やりくりがつかなくて困却すること」、「(9)出費がかさむこと」、「(10)出費がかさんで経済的に困窮(貧窮)すること」の意味が見えるが、室町期の『看聞日記』では、(4)〜(10)の意味が見える。古文書の室町期の用例(「東寺百合文書」)では、(4)、(8)〜(10)の意味が見え、古記録と古文書では使用される場面が違うようで意味的に偏りが見られる。また、室町期は(8)の「困却すること」や(9)、(10)の「出費がかさみ経済的に困窮(貧窮)する」の意味が多くなる。 「秘計」についても、「(1)秘密のはかりごと」から秘密がとれ「(2)はかりごと」になり、「(3)うまく取り計らうこと」へ派生し、「(4)工面、やりくり」から「(5)金策」になり、「(6)間に立って交渉ごとの仲立ち、媒介をする」、「(7)借金」へと社会情勢によって意味が展開する。こちらも古記録の『看聞日記』と古文書の「東寺百合文書」とでは用例の意味に偏りがあり、古記録・古文書の双方を利用しての意味記述が必要であることを痛感した。
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