本研究は語彙の明治から現代に至る消長の過程を、明治期の学術用語集『哲学字彙』に収録された学術用語を資料として、主に計量語彙論の理論と手法によって明らかにすることを目的としている。今年度は主に下記について調査・研究を行った。 (1)著者井上哲次郎の欧州留学が『哲学字彙』三版執筆に及ぼした影響について 井上哲次郎は『哲学字彙』の再版と三版の間で6年半にわたり欧州に留学し、そこでの学究生活について日記を残している。研究代表者(真田)は井上と同時期に欧州に留学していた日本人の日記との照合作業を行うとともに、この日記に書かれた欧州の学者や書名の整理を行い、井上の外国語学習の状況や言語観、人物交流について調査を行い、「漢字文化圏近代語研究会第6回国際シンポジウム」「2007中日理論言語学研究国際フォーラム」『埼玉学園大学紀要』などで発表した。 (2)著者井上哲次郎の『哲学字彙』三版執筆準備にかかわる自筆ノートについて 研究代表者(真田)は、2004年に井上哲次郎の留学中の自筆ノート2冊(東京大学所蔵)について調査を行った。 (3)語彙の伝播のS字カーブに関する分析手法の開発 学術用語が時間とともに伝播していく様相をS字カーブに近似させて分析するため、医学等ですでに実績のある多変量ロジスティック回帰分析を時系列の語彙データに適用する手法を研究分担者(横山)とともに開発した。時系列データとしてすでに公開されている国立国語研究所の岡崎市の方言データを用いてその精度の検証を行った。この成果は「5th Trier Symposium on Quantitative Linguistics」「第21回社会言語科学会研究大会」『計量国語学』などで発表した。 このほか漢語の現代日本語への定着に関する諸問題についての研究成果を『Typological and quantitative problems of lexicology』等で発表した。
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