研究概要 |
本研究は語彙の明治から現代に至る消長の過程を、明治期の学術用語集『哲学字彙』に収録された学術用語を資料として、主に計量語彙論の理論と手法によって明らかにすることを目的としている。今年度は主に下記について調査・研究を行った。 (1)著者井上哲次郎の欧州留学が『哲学宇彙』三版執筆に及ぼした影響について 井上哲次郎は『哲学字彙』の再版と三版の間で6年半にわたり欧州に留学しているが、この留学中の日記に書かれた欧州の学者や書名を手がか珍に井上の外国語学習の状況や雷語観、人物交流について調査を行い『漢字文化圏諸言語の近代語彙の形成』で発表した。また井上哲次郎の留学後の日記87冊(東京大学・文京区所蔵)について書誌的調査を行った。 (2)『哲学字彙』初版に採用された用語の追跡調査と計量分析 これまでに蓄積した『哲学字彙』初版所収の語の様相について新しい計量的分析を加え『Investigations in Japanese Historical Lexicology: Revised Edition』として出版した。 (3)語彙の伝播のS宇カーブに関する分析手法の開発 学術用語が時間とともに伝播していく様相をS字カーブに近似させて分析するため、医学等ですでに実績のある多変量ロジスティック回帰分析を時系列の語彙データに適用する研究を昨年度に引き続き進めた。今年度は国立国語研究所の方言データを用い、手法の精度についてさらに検証を行った。この成果は『社会言語科学』『Glottotheory』「第18回世界言語学者会議」等で発表した。また韓国国立国語院や「日本言語学会第137回大会シンポジウム」からこの手法に関する講演依頼があった。 このほか漢語の現代日本語への定着に関する諸問題についての研究成果を『Problems of General, Gemlanic and Slavic Linguistics』で発表した。
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