本研究は語彙の明治から現代に至る消長の過程を、明治期の学術用語集『哲学字彙』に収録された学術用語を資料として、主に計量語彙論の理論と手法によって明らかにすることを目的としている。今年度は主に下記について研究を行った。 (1)『哲学字彙』稿本と井上書き入れ本、元良勇次郎書き入れ本との照合 昨年度、代表者が発見した『哲学字彙』稿本についてその書誌を明らかにするとともに、『英独仏和哲学字彙』の編者である井上哲次郎、元良勇次郎が編纂の際に使用したと思われる『哲学字彙』書き入れ本と稿本との照合を一部開始した。その結果、書き入れた見出し語や訳語はすべてではないが、稿本及び『英独仏和哲学字彙』に反映されていることがわかった。この成果に関しては「日本語学会2010年度春季大会」で発表した。 (2)日本語の計量的な分析手法の開発 学術用語が時間とともに伝播していく様相をS字カーブに近似させて分析するため、医学等ですでに実績のある多変量ロジスティック回帰分析を時系列の語彙データに適用し、成果を『日本語の研究』(日本語学会)に発表した。このほか漢語の現代日本語への定着に関する諸問題や計量的な性質の分析手法についての研究成果を『Text and Language』『経済学季報』などで報告した。 (3)成果の総括 今年度は最終年度にあたるため研究成果全体を振り返り、学術用語の伝播と現代日本語への定着の問題について『日本語学』(明治書院)に成果をふまえて論文を発表した。また言語の計量的な分析手法についても研究概要について東北大学で講演を行った。成果は冊子体の報告書にまとめるとともに、井上哲次郎の日記『懐中雑記』の西欧人学者の氏名を索引にして冊子の付録として付けることにした。
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