明治維新前後には「客観」「法律」など数多くの新しい概念を表わす語が生じ、その結果、日本語の語彙はその基本的な部分にまで大きな変動がもたらされた。これらの語は西欧の文物受容における日本の近代化を支えただけでなく、この150年の間に現代日本語の基本的な語彙の一部に浸透し、専門分野のみならず一般的な言語生活においても必要不可欠な語彙となっている。この新しい概念を表わす語、特に専門用語の中でも学術関係の用語が明治初期に導入されてから現在に至るまでの過程でどのようにして定着、一般化していったか、また或いは定着できずに消失していったかという語彙の消長に着目し、その全体像を資料の記述的研究と計量言語学の手法によって明らかにすることを研究の目的としている。 特に明治初年から大正にかけて出版された『哲学字彙』初版・再版・三版は後世への影響が大きいと言われているが、その成立過程や他の資料への具体的な影響は明らかになっていないので、主たる著者である井上哲次郎の諸資料と併せて調査を行う。また時系列の言語データを解析する計量的な手法の研究も並行して行う。
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