現代日本語の共時的文法研究が一定の成果を収めつつある21世紀初頭、その成果を応用・検証・発展させる研究の一方向として「方言間での文法現象の対照研究」があり、それには各方言の網羅的・俯瞰的把握が必要である。本研究の目的は方言学の分野で集積されてきた諸方言の文法記述から文法形式を網羅的に取り上げ、統一的観点のもと記述を精密化し、全国方言の文法現象を一望できる辞典を編むことである。本年度は以下の調査・研究を行った。(1)『全国方言文法辞典《条件表現編》』に収録する原因・理由表現の原稿を作成・検討した。《記述編》宮古島市平良字下里方言の原因・理由表現(中本謙)、青森県東津軽郡外ヶ浜町蟹田方言の原因・理由表現(竹田晃子)、《辞典編》サカイ類(サカイ・サカイニ・サカライニ・サケー・サゲ・スケァー・スケ・ステ・ハゲ)(日高水穂)、セン類(セン・サエ・ソエ・セー・シェン・シニ・サニ・テン)(吉田雅子)、デ類(デ・ゼ・ジ)(小西いずみ)、二(ニ・イ・ン・ネ)(吉田雅子)、ハンテ類(ハンテ・ハデ・ハンデ・アンテ・エンテ・ンテ・ンテガ)(日高水穂)、ンガ類(ンガ・ンダンガ・ダン)(吉田雅子) (2)『全国方言文法辞典《条件表現編》』のための仮定表現、逆接表現の調査項目を作成・検討した。項目作成は前田直子の総括のもと、三井はるみ「仮定表現(バ・ト・トシナ・トシノ・トサイガ・タラ・ギー・ナラ)」、高木千恵「逆接表現・テモ類(テチャ・テモ・ティン・シャデモ・タッテ・カテ・バモ(バマイ))」、吉田雅子「逆接表現・ノニ類(バッテ・ドモ・ノニ・ニ・シガ・ムンヌ・ムン)」が分担した。(3)格表現調査項目を作成した。項目作成は日高水穂が行い、「格」『方言文法調査ガイドブック3』(国立国語研究所全国方言調査委員会、2009年3月)に収録した。
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