研究概要 |
今年度は,意志・推量表現について,追加的な研究をし,また,仮定条件,逆接条件,および待遇表現を研究した。 意志・推量表現については,東海,ナヤシ(長野・山梨・静岡)地方の一部に,ダラ・ズラ・ラなど古態かつ方言化した形式があること,同じく,この地方の勧誘表現についても,似た性格があることを述べた。これらは,西部日本の周辺部としての当地域の特色であることを考えた。 条件表現については,逆接確定表現が,仮定条件法の分布様態と似て,方言周圏論的な分布をすること,またその伝播模様について考察した。待遇表現においても,国語史の模様と比較し,よく対応することを見た。 この研究はこれらの地図の解釈をとおして,伝播類型をさぐること,それをとおして日本語の形成史研究の手始めとすることである。これらの点については,以下のような点が現れた。 中央語で比較的歴史の古い意志・推量,条件法などの諸形式は,全国分布型をとり,近畿から西日本には新しい形式が比較的すみやかに,東日本へは日本海側への伝播が早く,太平洋側には遅く,従って太平洋側には古い形式の方言化した模様が見られる。また,東西両端の九州西部・南部と東北地方には古態的な模様とその方言化の模様が強い。 これに対し,中央で比較的新しい時代に成立した準体助詞,逆接条件のうちのケレドモ類,敬語のうちのアナタ,オーニナルなどの形式は,近畿から西日本へ,次に飛び火して江戸・東京からも放射され,上方と江戸の東西の2中心地から放射され,今まで東西方言として二分されていたものが,西部方言の内部でも近畿が中央で九州と中部地方が周辺部,東日本でも関東中央部が中心となり関東西部と東北が周辺部,そしてこの場合の東部方言では新しい形式が日本海側よりも太平洋側を北上する模様があるように思う。このような東・西ごとの方言周圏論的な伝播模様とその経路の違いのあることが分かってきた。
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