いままで多数の先行研究がある英詩の韻律構造の研究を前提として、その(表面的な)複雑さゆえ理論的視点からあまり注目されることがなかった、Emily Dickinson(以下、Dickinson)の詩の韻律構造、わけても、韻律的倒置を中心に据えて、その実態を捉えることを目的とした。 研究の結果、以下の二つの点が明らかになった。(i)Dickinsonの詩においては、初期近代英語期の詩人とは違い、韻律的倒置を限定的に使用しているのではなく、韻律的倒置を可能な限り駆使して詩作をしていたと考えられる。(ii)韻律的倒置の分布をもとにすると、Dickinsonの韻律構造は、今までの先行研究で言われてきたような複雑なものではなく、四つの主な制約の優先順位により決定されており、詩行の韻律型は基本的には4種類であると考えられる。
|