平成19年度において行なった研究(複合語全体が複合語の右側の要素の下位語(hyponym)に厳密にはならない例、たとえば「方向音痴」や「運動音痴」は厳密には「音痴」の下位語にはならず、また「野菜ソムリエ」や「タオルソムリエ」は厳密には「ソムリエ」の下位語にはならない。このような例においては「音」や「ワイン」という意味要素の稀薄化がみられるが、そのような希薄化が起こるメカニズムを、「特質構造」の考えに基づき、Johnston and Busa(1999)が提案した「語彙意味論的表示のモデル」を応用して示した。)を基にして、さらに複合語の2番目の(あるいは最後の)要素としてしか使うことのできない意味を「複合語特有の下位意味」として捉える可能性を追求した。これはたとえば「老子一流のアイロニー」という例の「一流の」や、「村落史研究一筋の」の「一筋の」、「レースのカーテン越しに」の「越し」、「小学校の教室よろしく」の「よろしく」のように、単独の場合や複合語の左側の(あるいは最初の)要素として使われる場合には生じてこない下位意味である。このような意味の特性を調べることにより、複合語における意味解釈の精密化という本研究のテーマを掘り下げることができる。今年度に行なった上記の研究内容は、2009年11月に出版予定の書籍(申請者による単著で3部から成る)の第3部に収録されており、現在印刷中である。
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