昨年度は「複合語に特有の下位意味」という概念を用いれば複合語の意味に関わる興味深い側面が捉えられることを示した。 本年度ではさらに「食べ放題」や「言いたい放題」などの複合語の例に見られる「放題」という表現に着目し、朝日新聞の1年分の記事データやインターネットにおけるデータを使い、現代日本語における「~放題」という表現の使用の実態を明らかにするとともに、「放題」という表現が古い日本語においてどのように使われていたかを調査した。その結果、次のことが明らかになった。(1)15世紀においては「放題」という表現は2つの表記(「ほうだい」と「はうだい」)がなされ、異なった単語であり意味も異なっていたが、その後発音が同じになるとともに異なった2つの意味を持つ1つの単語と理解されるようになった。そしておよそ19世紀の後半には、現在と同じように「~放題」のような、他の単語の後に付いた形でしか用いられず、接尾辞に類似した用法だけを持つようになった。(2)「放題」自体は接尾辞と考えるよりも、依然として単語であるが「複合語に特有の下位意味」だけを持つと考える方が適切である。(3)「放題」それ自体は漢語の表現であるが、その前に現われる表現(~で表わされる部分)は和語に限定されることがわかった。またその場合には基本的に動詞の連用形に付加する。(4)「放題」は複合語に関わる新たな種類の「文法化(grammaticalization)」の例と考えられる。
|