本年度(初年度)の研究では、まず英語の転移現象に関する先行研究の資料収集を進め、統語構文論と機能構文論の立場からどのような事実観察と考察・分析がなされたのかを詳細にわたって検討し、個々の分析の妥当性と問題点を明らかにした。 統語構文論に基づく研究に関しては、「移動分析・基底部生成分析」各々の主張を裏付けるとされる根拠を再評価して、これらの分析の妥当性の確認を行った。機能構文論に基づく研究については、これまで提案された機能論的概念を確認し、これらの概念が、様々な言語現象を記述する上でどのように利用されてきたのかという問題について調査を進めた。 その中で具体的に明らかにされたこととして、まず、虚辞thereを含む存在構文に現れる場所表現が文頭に移動した場合、この場所表現が、Kuno (1975)、Reinhart (1976)などの「場面設定表現」(scene-setting expression)として機能するという知見を報告しておきたい(裏面のAki(2008)参照)。この研究成果は、Williams(1984)が主張する存在構文分析の大きな支持根拠を覆し、Stowell(1981)などの標準的な小節分析を裏付けると同時に、場所表現を伴う存在構文の新しい分析(Takano(1996)など)を支持する点において、重要な成果である。 また、英語の転移現象に関わる情報構造の俯瞰的分析を進め、この転移現象の有標特徴を、Sperber and Wilson(1986)の関連性理論の観点から捉え直す試みを行い、英語の転移構文の派生理由を関連性理論の道具立てを用いて分析する可能性を探った(次ページの内田(2008)を参照)。
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