本年度(最終年度)の研究では、まず前年度の研究で移動分析を仮定することが妥当であるとされた転移現象と、移動分析を仮定することが妥当でないとされた転移現象、それぞれにに付随する機能構文論的意味概念を明らかにすることを目指した。このことにより、移動の駆動要因として、どのような機能構文論的概念が許されるかという問題に取り組んだ。このことが可能となれば、同時に、当該構文に特徴的に観察される機能構文論的概念のありうべき姿を明らかにすることが可能となるからである。以下、実績の概要を列挙する。 (1)疑似分裂文の派生に関する倒置移動分析を検討し、これまでに報告されている疑似分裂文の二方言の言語事実を説明するため、FocusPを領域とする倒置とTensePをを領域とする倒置の複数の派生方式を提案した。 (2)連辞文に生ずる「経験者/受益者」表現が、文頭・文末位置に現れる場合と文中に現れる場合を比較検証し、両者が別個の意味役割を表すことが有ることを明らかにし、文の高位の位置に視点役割を付与するPOVPを設定するKishida and Sato(2008)の分析を仮定して、「経験者/受益者」表現に関わる言語事実の説明を試みた。 (3)tough述語を伴う二構文を移動操作によって関連付けることが不可能であることを、二構文の構造的な違いを明らかにすることによって、明らかにした。 (4)聞き手に対して話し手が効率的かつ的確に情報を伝達する際に起こる心的動機づけが、構文内要素の移動駆動要因となると仮定し、関連性理論の枠組で、移動要因について考察した。また、英語教育への応用を試みて、中学校・高等学校でのコミュニケーションを前面に押し出した英語指導の側面に立ち、話し手と聞き手の間に起こる要素の移動、置換、省略現象についての導入・解説の方法を検討した。
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