本年度は、再構成現象の1つである不定詞節からのかき混ぜについて、(1)前年度までに集めた中英語のデータに関する理論的説明、および(2)古英語と近代英語のデータの調査を行った。(1)については、不定詞節からのかき混ぜが初期中英語では頻繁に見られたが、除々に衰退し15世紀初頭にはほぼ消失したという事実を、最近の生成文法の枠組みにおいて理論的説明を試みた。まず、例外的格標示(ECM)節からのかき混ぜのデータより、かき混ぜがA移動であることを論じた。この移動は、古英語から後期中英語にかけて、目的語・動詞語順を生じる移動と同一である。したがって、不定詞節からのかき混ぜの消失は、目的語・動詞語順の消失と同様に、vのEPP素性の消失の帰結とし説明される。コントロール不定詞節の場合には、1300年頃にはかき混ぜが急激に減少するが、これはコントロール不定詞節におけるPRO主語の出現と関係がある。すなわち、不定詞標識toの前置詞から機能範疇への文法化によりコントロール不定詞節がTPに変化すると、その外項が不定詞形態素ではなく、PROとしてvPの指定部に現れるようになる。その結果、コントロール不定詞節のvPがフェイズとなり、さらにはPROの介在により、A移動としてのかき混ぜが阻止されるようになるのである。(2)については、まだ調査を始めたばかりであるが、やはり古英語では不定詞節からのかき混ぜは、中英語より頻繁に見られるようである。近代英語においては、不定詞節からのかき混ぜは非常に稀であるが、16世紀中までは散見される。(1)で述べた説明との関係において、近代英語のデータをどのように処理すべきかは次年度以降の課題となる。
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