本年度は、小節における再構成現象として、小節主語と述語の倒置について調査を行い、機能範疇の出現という観点から生成文法に基づく理論的説明の可能性を探求した。まず、古英語から初期近代英語までの電子コーパスに基づく調査より、初期の英語では小節主語と述語の倒置が現代英語よりも広く観察されることが分かった。現代英語では、小節主語が述語よりも重い場合にのみ倒置が起こるが、初期の英語では前者が後者と同じ重さ、または前者が後者よりも軽い場合にも倒置が可能である。現代英語の小節における倒置には主語の右方移動が関与しており、右方移動に対する制約が英語史を通じて変化していないとすると、初期の英語では、述語の左方移動により倒置が生じていたと考えられる。さらに、データを注意深く見てみると、述語全体が移動している例と述語の主要部のみが移動している例が観察され、後者の例はイタリア語で見られる小節再構成と同様の現象である。 小節の構造変化、特に機能範疇の出現を示唆する独立した現象として、as、遊離数量詞、虚辞主語の分布について以前に調査を行った。その結果、14世紀に小節内に叙述を認可する機能範疇Pred(ication)が出現し、18世紀中に確立したという仮説を立てた。そして、今回この仮説を上記の倒置にも適用し、Predの有無が小節主語と述語の倒置可能性に関与していると考えるに至った。すなわち、Predが確立される18世紀までは、小節が語彙範疇のみからなる構造を持っていたので、述語(の主要部)の左方移動が可能であったが、18世紀中にPredが確立されると、PredPがフェイズであるために述語(の主要部)の左方移動が不可能となり、現代英語では倒置は右方移動によってのみ生じるのである。
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