研究課題
最終年度である今年度は、これまでの研究の総括を行うとともに、不定詞節と小節における再構成の歴史的変遷において重要な役割を果たす機能範疇について、その出現の原因について考察した。まず、不定詞節の再構成現象としてコントロール不定詞節からのかき混ぜについて研究してきたが、古英語から初期近代英語にかけて、不定詞標識toが前置詞から機能範疇Tへと変化した結果、不定詞のvPがフェイズとして確立され、またPRO主語が義務的に現れるようになったために、A移動であるかき混ぜが16世紀中に消失したと結論付けた。この不定詞節における機能範疇の出現は、不定詞標識toが語彙範疇である前置詞から機能範疇Tへと変化した、いわゆる文法化の典型的な事例である。一方、小節の再構成現象として主語と述語の倒置について研究してきたが、14世紀に小節内に叙述を認可する機能範疇Pred(ication)が出現し、18世紀中に義務的となった結果、それ以降は小節がフェイズとして確立されたために、述語(の主要部)の左方移動が許されなくなり、主語と述語の倒置が現代英語と同様の制限に従うようになったと結論付けた。この小節における機能範疇の出現は、不定詞節の場合のような、既存の語彙範疇が機能範疇へと変化する文法化であるとは考えられない。そこで、中英語に起こった小節主語と述語の形態的一致の消失に基づき、両者の形態的一致があった時代には小節における叙述が形態的に認可されていたが、その消失により機能範疇Predが出現し、叙述を認可するようになったと結論付けた。すなわち、小節における機能範疇Predの出現は文法化ではなく、主語と述語の形態的一致の消失が引き金となり、叙述理論が重要な役割を果たすという点で、形態論により駆動された統語変化であるということになる。
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Synchronic and Diachronic Approaches to the Study of Language : A Collection of Papers Dedicated to Professor Masachiyo Amano
ページ: 371-384
Studia Linguistica
巻: 64 ページ: 239-270
English Linguistics
巻: 27 ページ: 374-398