研究概要 |
本研究課題では、メタファーという認知プロセスによる人間の創造的概念形成のメカニズムの解明を目指し、思考、特に感情に関する概念メタファーを反映する言語データを大規模電子コーパスや文学作品テクストから収集し、分析を進めてきた。今年度は、認知言語学におけるメタファー理論にコーパス言語学の方法論を導入することによりメタファー研究の新展開の原動力となった重要文献であるAlice Deignan, Metaphor and Corpus Linguistics(2005, John Benjamins)の翻訳書『コーパスを活用した認知言語学』を、本研究課題の研究分担者渡辺秀樹を代表とする翻訳グループ4名で大修館書店から刊行した。本書は感情メタファーや英語動物名の人間比喩用法についても詳細に論じており、本研究課題と密接な関係がある。研究代表者・分担者は、ともに本研究課題における研究成果を翻訳書の脚注に盛り込み、学術書として原著を上回る密度の高さをもつ翻訳書を刊行することができた。また、今年度は文学作品としてシェイクスピアのソネット詩篇を選び、テクストに表された愛情と憎悪の感情を描写するメタファー表現の背後にある認知プロセスについて、翻訳との比較も行いながら研究し、2つの論文にまとめた。1つは大阪大学言語文化研究科の共同研究プロジェクト報告書に、もう1つは共同執筆による研究書『意味と形式のはざま』(英宝社)の中で発表した(印刷中)。 また、個別感情を表す慣習メタファーにおける写像の体系的特徴について考察し、一般的に対義や類義と認識されていない感情ペアの意外な関係が写像の構造の観点から明らかになることを解明した。この研究は、Peter Lang社から刊行されている言語学研究シリーズのLodz Studies in Languageの第20巻Perspectives on Emotion(Paul Wilson編)に執筆を依頼され発表した。本書は現在印刷の最終段階で、まもなく刊行される。また、この研究については2011年の関西言語学会で招聘発表として報告することになっている。
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