英語の分詞構文という表現形式は、通常分詞句の主語は主節の主語と一致すべしとされ、不一致のものは「懸垂分詞」と呼ばれ、分詞構文の中でも破格であり「良くない英語」と文法書にも記載されてきた。一方で慣用的な分詞構文には主語が一致していないものが多々見られる。本研究ではこの懸垂分詞の実態をコーパスからの収集例に基づいて調査し、主節および分詞句それぞれが表す事態をタイプ頻度とトークン頻度に分けて分類した。その結果、以下のことが明らかになった。 1. 1.「観察者・発話者(=分詞句の主語)の移動の結果、主節の事態が知覚・観察される」という、非明示ではあるが構文が与えているシナリオ的意味(=「発見のシナリオ」)がある 2. 主節は観察者・発話者の知覚内容と解釈される必要がある 3. 懸垂分詞構文は、主節が現在時制であったり分詞句表現が仮想移動であったり等の特徴から、バーチャルで概念的な事態把握を表すための構文である 4. 懸垂分詞・主節の2つの事態は、字義通りには互いに因果関係のない独立した存在だが、メタ的な観察者・発話者の存在およびその知覚行為を補うことで、初めて知覚の原則でもあるFigure-Groundの原則に合致することができ、これによって動機づけられ関連づけられる。 5. 懸垂分詞構文の表す事態把握は、2つの事態連鎖を客観的第三者的視点から表すことを好む英語にはあまりなじまないタイプの事態把握であった(むしろ日本語が好むタイプの事態把握である)。それ故に、英語としては破格として忌み嫌われてきたが、認知的な事態把握としては、日本語等に見られるように自然であるため、そのような事態把握が自然であるような会話や論述文では慣用表現として生き残っていると考えられる 「発見のシナリオ」で2つの事態を結ぶ際、談話認知レベルでは自然でも、文レベルに適用できるかは言語によって異なる。本研究はこのような類型論的研究の中にも位置づけられるものである。
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