研究課題
Lakoff and Johnson (1980)によってメタファーがことばの綾(修辞)ではなく認識の綾であること、言い換えると、メタファーがことばの飾りではなく我々の認識の基礎になる現象であることが指摘されて以来四半世紀にわたって、認知科学、認知心理学、認知言語学及び認知語用論の領域でメタファー研究は大きく発展してきた。しかしコミュニケーションに見られるメタファー発話を人がどのように解釈して話者の意図した意味にたどり着くのかという発話解釈過程という視点からメタファーを扱った研究は極めて少なく、Carston(2002)によるアドホック概念による表意レベルの分析も、ストーリーレベルの類似性に基づくメタファーヘストレートには適用できない。本研究は、様々な類似性レベルに基づくメタファー発話の解釈メカニズムの解明を具体的目標としている。平成21年度は、メタファーに関する関連性理論的分析と認知言語学的分析の比較検討に基づき、両者の得意不得意領域を明確にし、総合的なメタファー理論の有るべき方向性を確認しながら、その提案を試みようとした。しかし方向性を一部同じくするTendahl (2009) A Hybrid Theory of Metaphorの出版により、その知見をも取り入れてさらに発展させた理論の構築に取り組んでいる。関連性理論は、コミュニケーションにおける発話解釈のオンラインプロセスのモデル化をその中心的目標とするが、メタファー写像を仮定せずストーリーレベルのメタファーを扱いにくい。認知言語学は、概念レベルのメタファー写像を仮定し、その適用範囲はすべてのレベルに及ぶが、動的なメタファー解釈のオンラインプロセスを十分に説明することが出来ない。どちらもメタファー分析には必須の側面である。ストーリーレベルのメタファー解釈には両者の統合が必要であり、その過程で関連性の原則が重要な働きをしていることを明らかにした。
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人間文化研究科年報(奈良女子大学大学院人間文化研究科) 第25号
ページ: 1-13
日本エドワード・サピア協会 研究年報(日本エドワード・サピア協会) 第23号
ページ: 25-37
言語の領域II(中島平三監修、今井邦彦編集,共著),(朝倉書店)
ページ: 214(第3章語用論25-51担当)