本研究では、統語部門を中心に発展してきた極小論を音韻部門にも適用することで、言語機能を包括的に解明しようとする。特に、以下の三点を検討することで、統語論と音韻論の両領域にわたり共通の普遍的範疇や普遍的原理の存在を解明することを試みる。 (1)音韻範疇(弁別素性や音節構成素等)を見直し、極小論の指針と合致する範疇を探求する。具体的には、独立解釈可能な弁別素性や最小構成性原理に基づいた韻律範疇の特定化を行い、音韻派生過程において余剰性を排する音韻体系を考案する。 (2)(1)で解明した範躊を基盤とした音節や韻脚といった超分節構造(プロソディ)と分節内階層構造を考案する。その際、統語論で用いられている裸句構造(Bare Phrase Structure)を用いた構造を採用することで、これまで異なる構造を呈すると考えられてきた音韻論と統語論との間に、構造上の整合性を見ることが可能となる。 (3)極小論の立場から、音韻部門と調音・知覚システム(articulatory-perceptual systems)との関係を解明する。具体的には、音韻部門と調音・知覚システムとの間に、派生中間レベルを一切仮定しない直接的転写モデルを提案し、音韻現象の分析を通して、その妥当性を探る。
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