平成15年度から今年度平成18年度まで科学研究費補助金を受けた「中英語頭韻詩における口承様式の定型表現」研究において、中英語の韻文や散文に口承様式の定型表現が存在したか、頭韻の繰り返しによる遊びが英詩の伝統が形成されるなかでどのようにして文芸にまで高められていったかを解明を試み、主立った中英語頭韻詩の分析データを蓄積することができた。本研究の目的は、この先行研究で得られたデータを更に多面的に分析し、他の作品も加えて更に総合的なデータとして編集し、定型表現のように繰り返し登場する同一あるいは酷似した連語の成り立ちが、韻律の枠組みの中でどのように機能しているかを解明することである。 分析は、古英語頭韻詩に用いられる口承様式を思わせるように繰り返し登場する一定の語の組み合わせに注目し、それぞれの作品の中で特定の連語が韻律とどのような関係にあるかを解明する。書き言葉を前提とした中英語頭韻詩ではあるが、声に出して読むことが依然前提とされていた当時において、繰り返しを好み、さまざまな技巧を駆使して独自のリズムを生み出した頭韻詩の詩人たちは、斬新的な技巧と古くからの伝統の両方をどのように取り入れたかを解明すれば、中世英語における文芸の意義を再考し、また英語史研究にも貢献することができると考える。口承様式の定型表現を集め、音韻と統語の関係を明らかにし、個々の作品の特徴、作品間の差と全体に共通するテンプレートを明示することで13世紀から15世紀のあいだに英語文芸活動が頭韻詩において表現しようとした繰り返し表現の意味と言語変化を再構築することができるであろう。
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