本研究では、Swipingと呼ばれる省略現象について、その統語的、音韻・韻律的特性等の実証的な解明を昨年度に引き続き行った。さまざまな方法でさらに収集を行った英語、ノルウェー語等ゲルマン諸語の豊富なデータに基づき、Swipingという一見特殊な現象が、前置詞残留(preposition stranding)や外置(Extraposition)のような、ごく一般的な統語現象の相互作用の帰結として説明できることを、より明確にした。そして統語的に説明しきれない事実については、音韻・韻律的・形態的要因等からの解明をこれまで以上に進展させた。具体的には、英語・ノルウェー語等の残余前置詞句外置(remnant PP Extraposition)を含むデータの収集をより徹底し、Swipingによって残される前置詞や、外置された要素と元の位置との間に介在する(副詞的もしくは前置詞句等の)要素等の特性について考察を深めることにより、前置詞残留と外置によるSwiping分析の妥当性をあらためて論証した。交差制約(crossing constraint)のような言語解析に関わる要因がSwipingにおいて作用する可能性についてはすでに論じてきたが、これに加えて、外置された要素と元の位置との間に介在する要素の音韻・韻律的特性、外置によって生ずる情報構造の変化・談話意味論的要因等が、Swipingを含む文の容認性に大きく影響することを、さらに収集を進めた英語・ノルウェー語等の興味深いデータに基づいてより明確に示した。例えば外置された要素と元の位置との間に介在する要素が、yesterdayのような単独の副詞か、on Tuesday momingのような複数の語からなる前置詞句かによって容認度に差が出ることが、英語とノルウェー語の両方のデータで確認されたことにより、両言語において同様の音韻的・韻律的要因が作用していることが明らかになった。Swiping現象のもつさまざまな性質を統語的、および音韻・韻律的要因等から考察することで、緻密な統語理論の構築に寄与するだけでなく、統語的要因と音韻・韻律的要因等との相互作用のしくみの解明に向けて大きな貢献を果たした。さらに、英語およびゲルマン諸言語におけるSwiping現象および関連現象の豊富なデータの厳密な検証に基づく議論によって、言語の普遍的特性、ある言語グループに共通の特性、また特にノルウェー語において観察された個別言語・方言に特有の興味深い性質を、明確に切り分けて明らかにすることが可能となった。
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