研究概要 |
本年度は、「位相」の概念を介した音声表示と論理表示との関連について研究を行った。「位相」は、Chomsky(2000)によって提案され、Chomsky(2001,2004,2005)によってさらに発展した概念である。Chomskyの一連の研究では、意味的に命題である範疇、すなわちCPとvPが「位相」であるという定義を採用している。そして、「位相」は音声表示と論理表示への「移送」(それぞれ、「PF移送」、「LF移送」)が適用される単位であると主張され、「PF移送」と「LF移送」は同時に適用されると仮定されている。しかし、「PF移送」と「LF移送」は別々な操作であることを考えると、同時に適用されなければならないというアプリオリな理由はない。実際に、Nissenbaum(2000), Megerdoomian(2002), Cecchetto(2004,2005), Felser(2004), Maruic(2005), Matushansky(2005), Ishii(2008)などでは、「PF移送」と「LF移送」の適用段階が異なる、すなわち、PFにとっての「位相」とLFにとっての「位相」が異なるという主張がされている。そこで、本年度の研究では、この可能性をさらに推し進めて、「PF移送」と「LF移送」の適用段階が異なるという仮説から、どのような言語現象の説明が可能となるのかを詳細に検討した。その際の証拠として、韻律と意味との関係についての現象を扱った。この点について、特に、英語及び日本語の再帰代名詞の解釈が韻律によってどのように影響があるのかに注目し、研究を行った。
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