研究概要 |
20年度は,19年度に引き続き「文章の難易度」との関係について,学習者と母語話者の間における言語処理上の相違に関する考察を加え,論文にまとめた。さらに,「パラフレーズに用いられた語」に着目し,「語の難易度」及び「語選択」の面から検証した。概要は以下の通りである。 第一に,言語処理上の母語話者との相違として,学習者は文章の難易度に関わらず,パラフレーズ使用が相対的に少ないことに加えて,長い抜き出しが顕著であるという結論を得た。従来の関連研究では,学習者側の要因からのみ検討されてきたが,本研究により文章の難易度といった側面から上級日本語学習者のパラフレーズ使用の特徴が示され,教授法や教材を検討する上での知見が得られた(『日本語教育論集』25号)。 第二に,「語の難易度」の観点から,パラフレーズにおける語彙の使用傾向を検証した。その結果,難易度が低い語においては学術的な語彙の使用が認められる一方,級外語彙すなわち難易度が高い語においては原文からの抜き出しに偏る傾向が明らかになった。アカデミック・ライティング教育における語彙指導の観点から,大学の一般教育で必要となる語彙の充実と,適切なパラフレーズ使用を視野に入れた語彙指導が重要であることを論じた(『外国文学』58号)。 第三に,「語選択」の観点から,和語動詞からのパラフレーズを取り上げ,用言の名詞化に伴う誤用を分析した。その結果,上級漢字圏学習者であっても誤用が少なくなく,特に中国人学習者に和語動詞の連用形による誤用が多いことが判明した。このような局所的なパラフレーズ運用を支えることにより原文からの抜き出しに偏らない内容のまとめが可能になることが推察されることから,日本語学習支援システムの活用,また教材及び練習方法を充実させることの重要性を示した(『日本文化研究』28号)。
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